ご縁結びの事例 | MUSUBI #02
‘わからない’ から惹かれる、アートな思考
かつては関心のなかったアートの世界。
作品や、その背景にある作家の思想は自分の中に眠っている“新たな視点”を呼び覚ますことに気が付いた。
“わからない”という感覚こそが、想像や自由を生み、それは仕事に通じている。
福祉×アートで経営をする彼に、「アートをどう仕事に活かしているのか?」お話を伺いました。

― Q. アートに触れたいのは、どんなときですか?
頭を整理したいというより、自分の中で仕事以外のことを考えたいときです。
そんなときには「アート要素を入れないと」と感じます。何か成果や答えを出すわけではなく、絵を見ながら、ラジオの「ザーッ」というノイズにチューニングを合わせるように、自分を整えるためです。
様々な展示会に行き、作品とタイトルを見比べながら「これはどういうことだろう?」と考えます。作家さんにお話を聞かなければ真意はわからないけれど、「こういうことかもしれない」と自分の中で想像していく時間が楽しい。
作品を鑑賞し、最終的には「好きか嫌いか」「欲しいか欲しくないか」に落とし込んでいます。資産価値としてではなく、自分の波長と合うかどうか。家に置きたいか、そばにあってほしいか。そんなふうに、私の中でアートを見るときの基準は、ごく主観的です。
― Q. 絵を迎えてから、どんなふうに過ごしていますか?
わかりやすい作品より、わかりにくい作品のほうが好きです。
日によって見え方が違うからです。
迎えた絵を見ていると、「この中に入っていくのか」「そこから出ていくのか」——そんなふうに二通りの見え方をします。自分が“内”にいるのか、“外”にいるのか。
一日中意識しない日もありますが、ふとした日常の動作のなか、例えば歯を磨きながら眺めると、「こんなところに、こんなものがあったんだ」と新しい発見があります。行き詰まったときに見ると、光が差し込むように感じる日もあれば、静かに沈み込むように見える日もあります。絵がどのように見えるかは、自分の内側の状態をそのまま映しているように思います。
― Q. アートが身近になったきっかけを教えてください。
最初は、まったく興味がありませんでした。
福祉の仕事の中で「アートを取り入れてほしい」と言われても、正直「面倒くさい」「わけがわからない」と感じていたくらいです。転機は、板室温泉の大黒屋さんで毎月開かれる個展に通うようになったこと。なるべく作家さんの在廊日に行き、直接話を伺いました。「これはどうしてこうしたんですか?」と尋ねると、返ってくる答えがそれぞれまったく違います。そのやり取りの中で、アート的な考え方は自分の福祉の仕事にも、通ずるものがあると気づきました。
自分が、なんとなくこうだよね、と思っていて言語化や表現ができなかったものを、作家さんたちは作品で出していることを知りました。その瞬間、「やり方はいくらでもあるんだ」と腑に落ちました。アートに新たな視点を求めるようになったのは、そんな体感があったからです。そうして“わからないもの”に、惹かれるようになりました。作品を見て、そのわからなさに想像を膨らませたり、作家さんの頭の中を聞く、というのが自分なりのアートの楽しみ方です。
― Q. アートから、どんな視点を得ていますか?
私は「北風と太陽」というレストランを運営しています。旧戸田小学校を改装し、障害者の就労継続支援事業として、食事とアートを楽しめる空間にしています。
ここで作家さんの制作を見ていると、「そこから描くの?」と驚くことがあります。その姿から、無意識のうちに「絵はこう描くものだ」と決めつけていた自分に気づきました。同時に、「こうしなければならない」という社会のルールのような暗黙の了解にも、どこか縛られていたことを実感しました。
制作過程を隣で見ていなくても、展示会で見た作品に対し「どのように作ったか?」と作家さんに尋ねると、びっくりするようなルールを課して、ものをつくっている方もいます。どんな思想のもと、どのように作品が作られたか、哲学と過程を知ることは「そうじゃなくてもいい」と自分のなかの固定概念を変えるきっかけにもなっています。
なにか一つの解を得たいわけではなく、やり方の多彩さを自分に許容したり、一方で、自分なりの流儀を決めることも自分の中に加えるなど、仕事に活かせる様々な観点を得ています。
― Q. 作品だけでなく、作家の思想にも惹かれる理由は?
作品と作家さんの思想、どちらも大切にしています。
展示会に行くときは、なるべく作家在廊日に足を運び、作家さんの想いやストーリーを聞くようにしています。作品を気に入り、さらに作家さんと話して面白いと感じたときに、「この作品を迎えたい」と思います。どちらかが欠けていたら、迎えるまでには至りません。
そうやって購入した作品を自身の日常に加え、自分の解釈を自由に楽しんでいます。作家さんの想いを知り、制作過程も知り、そして、自分なりのストーリーを紡げることが、現代アートの面白さだと思います。
わかりやすい作品よりも、見るたびに姿を変える作品を好む理由も、想像を何通りも自由に楽しみ、新たな発見をし続けることができるように感じるからです。
― Q. 福祉の仕事とアートに、どんな共通点を感じますか?
全く興味のなかったアートを、人生や経営の中に取り入れられたのには、きっかけがあります。
大黒屋の室井会長との出会いが、私にとって大きな分岐点でした。
私はもともと全くアートに興味がありませんでしたが、巷では「アートを取り入れると人生が豊かになる」、「心が豊かになる」という風によく言われますよね。それって、一体どういうことなんだろう?と疑問に思っていました。
自分なりに、アートを通して得た豊かさは、「見方が増える」ということです。
作品をみる目線は、そのまま他のことへ向ける視点にも転用できます。一方向からしか見ていなかったものが、「これ、裏はどうなってるんだろう?」「横は?」と自然に思えるようになりました。アートを見ることを通じて、気にも留めなかったものに、目を向けられるようになりました。
これは仕事にもつながっています。
新たな視点を得た時に、こうでなくてはいけない、と思っていたものではなく、別のやり方を試そう、と思えてきます。この仕事をしていると、なんとなく、あきらめていることが多いのかなと思うときがあります。そんなときに、できないことに挑戦しているような印象のある作家さんを思い出します。その姿勢は、福祉の現場にも通じる精神を感じます。
私自身、職員に「利用者さんの可能性をどう引き出すかは、あなたたち次第」と伝えています。自身にとっても「職員の可能性をどう引き出すかは、私次第」です。最終的には、私の姿勢が利用者さんにかかっていきます。だからこそ、自分の中に、流儀のような、一本の筋を持っていたいです。大切な自身の在り方についても、作家さんが作品に向き合う姿勢から示唆を受けています。

宇宙塵の息吹(うちゅうじんのいぶき)
Primitive Origin of Yin and Yang
Acrylic on canvas 803×1000(F40)
– Keyword
新たな観点を得る、ポテンシャルを広げる
– 絵の個性について
自分の持っている概念、器を広げてくれるような印象があります。自分の力がどれくらいあるかということを知っていることも大切ですが、自分の知っている力量以上に広げられる世界が「宇宙塵の息吹」から感じられます。絵の中に入っていったときに、なんでも挑戦していいと思える、心地よい安心感があります。
自分が既に知っている概念を覆す新たな視点を知り、自分の器が拡張されていくような感覚をこちらの絵が伝えています。
(解説:キタムラ)
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